麦の穂の海

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2020/5/21

5月の海

雨の予報と思っていたのにお日様の光
そんな嬉しい朝は迷わず青麦の丘へ
揺れる麦の穂は波のよう
もう初夏なのだ
初夏にうまく乗り込んだ綿毛がひとつ、ふたつ

遠い北の海辺の近くに住む友人たちは もう泳ぎはじめているのかな
ひゃー息が止まるほど冷たい!と叫びながら、、、

 

夏の海ほど自分とかけ離れているものはないとずっとずっと思っていた
それが、ここ数年デンマークで夏を過ごすことが続いて
海がこんなに、いや肌がこんなに海に溶け込んでいくのだ、ということを発見した、今も、し続けている
”湖でエルスと泳いでいる時、澄んだ水の下に 自分の身体が別の生きもののように 
白くゆらゆら揺れているのを見て驚くことがある、、、、”
こんなフレーズを読んだ時 一瞬にしてスーッと肌にその感覚が伝わってきて
身体が記憶した感覚は、言葉を(文章を)また一層深いところへと連れていくということ

”私はエルスといると自分が全身で太陽を吸い全身で風の抱擁を受けているのを感じる
自分がこの大自然の一部に還元し、その中で甦り新しい命に目ざめでもしたように
裸足で地面や頭もこうした自然の中に融け込んでゆくのだ
自分の身体の裏面がむき出しにされ 快楽が深い奥底から火のように激しくつきあげてくるのを感じる”

”とおい森の上の雲は、どこか見知らぬ彼方へ流れていってしまう雲でもなく、
また私から離れた遠くに浮かんでいる雲でもない
それは私の中に青く拡がっている空であり、その空に浮かんでいる雲なのだ。
あたかも私という人間が花の香りにでもなって空中のいたるところに偏在しているように
自分という感覚は薄れてゆき時には自分がまったくなくなってしまうこともある”

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夏のデンマークがなんだか急に遠く、遠くへ感じられる日々が続いているけれど
身体に残ってる感覚は確かなもので、何かの拍子にそれらは鮮明に浮き上がってくる
だからいっぱい、そういう”何かの拍子”をたくさん作っていこうと思う、
麦畑が 夏の海へ連れていってくれるのだから
ただ身体を広げて 自然の中へ分入ればいい、のかもしれない

引用は『夏の砦』 辻邦生より

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