美鈴池へ
葉っぱと雲と魚がゆうらり
およいでいる
友人に貸していた本が
わすれたころに戻ってくると
懐かしいような
まるでその本をはじめて開くような気持ちになる
おそらく
友人が
ある頁にたちどまった時間や
ふーっとついたかもしれないため息とか
がうっすらと紙の上にまだあるような
気配がして
ある頁が重くなったような気もする
そういう嬉しさ。
高原ロッジの日陰の道に
昨夜の雨で落ちた葉っぱが
目をみはるほど愛らしくてしゃがみこむ
カメラもスケッチブックも持たずに
きっと変な体勢でみつめていたから
大丈夫ですか、と声をかけられた
それでもへっちゃらに
たのしいきもちになって
葉っぱをいくつか拾い上げる
そして一枚を戻ってきたばかりの詩集に
滑り込ませる。嬉しそうな葉っぱ。
「樹は立ち止まっているように見えて
絶えず風を受けながら揺れる幅の中で
世界を旅している」
次の日は友人から
「これこれ、貴女に貸したかったの!」という本をうけとる
布製のその美しい本をひらいたら
表紙裏にすらすらっと濃紺色の万年筆でメッセージが綴られていた
もちろんわたしに、ではなくて
1997年の彼女に
誕生日の彼女に贈られた言葉で
それは読む前のオードブルみたいな響きでした
本の愉しみは
にばいさんばい。



